エンタープライズの営業では長く、アカウントエグゼクティブが主役でした。新規顧客の獲得やARRの成長の功績も、その多くが営業に集まってきました。その差はいま縮まりつつあります。技術の議論をしながら、それが顧客の事業や収益にどうつながるかを同じ場で語れるプリセールスやソリューションアーキテクトは、市場で最も求められる人材になっています。

この夏から秋にかけて、外資系のセキュリティ、データ、開発者向けツールのベンダーで働くプリセールスの方々と、続けて話をする機会がありました。肩書きはセールスエンジニア、ソリューションエンジニア、ソリューションアーキテクトとさまざまですが、仕事の中身にも、転職を考える理由にも、共通点が多くありました。違いを生むのは製品よりも、ベンダーの規模と日本での事業段階です。

プリセールスとは、受注に責任を持つ技術者

プリセールスは、営業と組んで顧客の課題を聞き、デモやPoCで製品の価値を示し、提案書やRFPの技術的な部分を担う職種です。顧客と話す順番も大切で、まず事業部門の課題を聞き、その後に技術部門と連携の詳細を詰める、と話す方もいました。開発者とセキュリティ部門のように、同じ製品でも相手によって伝え方を変える必要があります。

報酬の構成も、受注への責任が重くなっていることを示しています。以前は基本給と変動報酬が80:20の会社が多かったものの、スタートアップを中心に70:30が広がっています。採用企業が求めるのは、要件を聞いて応えるだけの技術者ではなく、顧客の信頼を得るアドバイザーです。

「きつい」と言われる理由は、多くが体制にある

日本法人が数名のベンダーでは、プリセールスがカントリーマネージャーや営業一人と組み、二人で日本市場を立ち上げることも珍しくありません。デモやPoCに加えて、パートナーからの質問への対応、導入後のトラブル対応、展示会のブースまで担います。ある方は、仕事のかなりの部分が本社資料の翻訳に費やされていると話していました。

カスタマーサクセスやアーキテクトがシンガポールやシドニーから日本を担当していることも多く、日本のプリセールスが言葉の橋渡し役になります。フィールドマーケティングや日本語のカスタマーサクセスを本社に求めても、まず大きな案件を持ってくるよう言われる、という声もありました。プリセールスが「きつい」と言われるとき、その原因は仕事そのものより、日本の体制にあることが多いと感じます。

「日本で最初のエンジニア」は一つのキャリアになっている

話を聞いた方の中には、日本やアジアで最初のエンジニアとして、複数のベンダーの立ち上げを経験してきた方が何人もいました。日本法人ができる前から加わった方もいます。日本法人がない段階では、EOR(雇用代行)を通じて雇用されることもあります。

採用する側の期待はさまざまです。フィールドCTOに近い経験を求める企業もあれば、デモ用のスクリプトが書ける程度で十分とする企業もあります。転職の回数が多い場合は、それぞれの理由を説明できるよう準備しておくことが大切です。また、立ち上げの段階では、誰がカントリーマネージャーになるかで入社を決める方も少なくありません。

大手の中から、新しい技術を求めて動く

もう一つの層は、大手ベンダーの中で働く方々です。買収や合併で組織が変わった、ポジションがなくなった、会社の注力分野が変わった、という理由で話を聞くことが続きました。共通していたのは、より小さな会社で、新しい技術に関わりたいという希望です。製品への関心で転職先を決め、興味を持てない製品の話は最初から断る、という方もいます。

いま関心が集まっているのはAIセキュリティです。顧客はCopilotやGeminiを導入したものの、AIが何をしているかを把握できていない、という指摘がありました。まだ明確なリーダーがおらず、新しい予算が必要な市場でもあります。そのため、早い段階で関わることに価値を見いだす方が増えています。

パートナーとの仕事の比重

日本では、ディストリビューターやSIer、MSSPを通じた販売が多く、プリセールスの仕事にもパートナーの支援が大きな比重を占めます。大手の日本企業との最初の取引は、ディストリビューターが最初の顧客を兼ねる形で始まることもあります。ディストリビューター側のエンジニアは経験の浅い方が多く、そのことがベンダー側に経験豊富なプリセールスを求める理由にもなっています。

パートナー専任のアーキテクトとして働いてきた方は、パートナー、顧客、ベンダーの三者の関係は複雑で、本社に役割を理解されにくいと話していました。その方は、直販の顧客と向き合う役割に戻ることを望んでいました。一方で、大手クラウドでパートナーと密に働いた経験から、パートナー側の役割を好む方もいます。どちらが合うかは人によって異なり、求人を見るときに確かめておきたい点です。

年収と報酬の構成

当社の2026年のデータでは、外資系ベンダーのソリューションエンジニア・アーキテクトの目標年収(OTE)は1,700万〜2,600万円が中心です。上位層では3,000万円を超え、最も希少なアーキテクトはさらに上回ります。基本給と変動報酬の比率は70:30が広がりつつあり、75:25の方もいました。導入後の役割が大きいほど、基本給の比率は高くなります。

転職時には、2割程度の上積みを期待する方が多くいました。日本での立ち上げを担うポジションでは、3,000万円前後のOTEにRSUが加わる例もあります。大手から移る場合、手放すRSUをどう補うかは、判断の大きな要素になります。

英語と選考の進み方

日本で最初のプリセールスは、日本国外のSE部門長に報告し、日本のカントリーマネージャーとは点線でつながる形が多く見られます。報告先は本社のこともあれば、シンガポールやオーストラリアなどの地域拠点のこともあります。本社も米国とは限らず、イスラエル、英国、欧州の企業も少なくありません。時差のため、社内の会議が深夜や早朝になることもあります。最初の面接は日本国外の採用担当者と英語で行われ、日本の業務時間外に設定されることもあります。最終選考では、デモのプレゼンテーションや、顧客との打ち合わせを想定したロールプレイが求められます。

英語に自信がないと話す方は多いものの、実際には仕事に十分な水準であることがほとんどです。正式な選考の前に、まずカジュアル面談で話を聞きたいという方も増えています。

優秀なプリセールスほど、すぐに決まる

優秀なプリセールスが転職市場にとどまる期間は長くありません。この秋、当社が担当した採用でも、選考の途中で第一候補の方がほかのオファーを受けたケースが少なくとも4件あり、そのうち2件は同じ求人でした。複数の選考を並行して進め、最初に届いた良いオファーを受ける方も少なくありません。

転職を考える方は、動き始める前に職務経歴書とデモを用意しておくことをお勧めします。採用する企業にとっては、スピードがそのまま結果を左右します。面接の間隔が一週間空くだけで、望んでいた候補者を失うことも珍しくありません。

2026年に成果を出すプリセールス

採用企業が求め、実際に成果を上げている方に共通するのは、次の点です。技術の幅が広く、顧客の環境全体を見られること。展示会やイベントで人前に立ち、技術を説得力をもって伝えられること。要件に応えるだけでなく、自ら商談を見つけて育てる営業の視点を持っていること。そして日本では、パートナーを動かせることがさらに強みになります。技術の議論と事業の議論を一人でつなげられる人こそが、2026年の市場をリードしています。

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