外資系エンタープライズテクノロジー企業が日本法人の初代リーダーを代表取締役として登記すると、会社との関係は雇用ではなく委任となります。オファーに署名する前に、双方がその意味を理解しておく必要があります。

2017年、私は当時勤めていた会社で、事業部のディレクターからマネージングディレクターに昇格しました。昇格に伴い、新しい契約書に署名する必要がありました。その内容を確認する中で、耳にしたことはあっても自分には関係がなかったため深く調べたことのなかった点に向き合うことになりました。判断を変えるものではありませんでしたが、注意を払うべき点がいくつもありました。初めてマネージングディレクターに就く方には、署名の前に理解しておいていただきたい点です。

外資系エンタープライズテクノロジー企業が日本に株式会社を設立する際、初代カントリーマネージャーを代表取締役として登記するケースは少なくありません。この肩書きには大きな権限が伴いますが、同時に会社との法的な関係も変わります。代表取締役は雇用契約で雇われるのではなく、委任契約に基づいて会社の経営を任されます。従業員というよりは、成果を約束して業務委託を受ける専門家に近い立場です。そのため、労働基準法や労働契約法が従業員に与える保護の多くは適用されません。

本稿は二つの読者を想定しています。一つは、初めて日本法人の代表として経営を担う方です。もう一つは、日本で初めてカントリーマネージャーを採用する外資系企業です。私の経験では、どちらもこの論点に気づくのは、契約書が手元に届いてからであることが多いようです。

取締役と会社の関係は委任

会社法は、株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うと定めています。取締役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負い、労働基準法・労働契約法の解雇規制は原則として適用されません。

労働基準法上の「労働者」とは、使用者の指揮監督の下で働き、その対価として賃金を受ける者を指します。厚生労働省の通達は、法人の代表者や執行機関はこれに該当しないとしています。

判断の基準は肩書きではなく実態

労働者に当たるかどうかは、実態で判断されます。指揮監督の下で働いているか(使用従属性)、報酬がその労務の対価であるかが基準となります。

肩書きだけで結論は決まりません。業務執行権や代表権を持たない役員が、工場長や部長として賃金を受けて働いている場合、通達はこれを労働者として扱います。裁判例でも、常務取締役を兼ねる営業所長や、名ばかりの「副社長」について労働者性が認められています。これがいわゆる使用人兼務取締役です。

代表取締役はその反対側にあります。経営に関する事項を自ら決定・実行し、他者の指示を受けていなかった代表取締役について、代表権が包括的であることを理由に労働者性を否定した東京地裁の裁判例があります。事業全体に権限を持つ代表取締役が労働者とされる可能性は低いと考えられます。

解任と解雇は異なる

従業員の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります(労働契約法16条)。取締役にはこれに相当する保護はありません。株主総会はいつでも普通決議で取締役を解任でき、理由も必要ありません。親会社の完全子会社である外資系日本法人では、これは株主一社の判断で決まります。取締役会を置く会社では、取締役会の決議で代表取締役を解職することもでき、その場合は代表権のない取締役として残ります。

取締役に残る保護は金銭面のものです。正当な理由なく解任された取締役は、会社に損害賠償を請求できます。損害は、任期満了まで在任していれば得られたはずのものを基準とし、通常は残りの任期中の役員報酬、場合によっては賞与や退職慰労金が含まれます。正当な理由とは、不正行為、職務の遂行を妨げる心身の故障、職務への明らかな不適任など、職務の遂行に客観的・合理的な支障が生じた場合を指します。能力不足については、その役職に求められる水準に達していなかったとして正当な理由が認められた例がある一方、一般的な指摘にとどまるとして否定された例もあります。大株主の信頼を失ったこと、より適任の候補者がいること、経営方針の違いだけでは、一般に足りないとされています。正当な理由の有無は、個別の事情によって判断されます。

そのため、任期の設定が重要になります。取締役の任期は原則2年以内ですが、非公開会社は定款で最長10年まで伸長できます。任期が長いほど請求額は大きくなり、短いほど小さくなります。また、委任は各当事者がいつでも解除できるため、取締役はいつでも辞任できます。

社会保険への影響は三通り

  • 雇用保険。取締役は原則として被保険者になりません。部長などの従業員としての地位を兼ね、労働者的性格が強いと認められる場合に限り、被保険者となることがあります。代表取締役は対象外のため、解任後に基本手当は受けられません。
  • 健康保険・厚生年金。引き続き加入します。法人から労務の対償として報酬を受けている役員は、法人に使用される者として被保険者となります。
  • 労災保険。役員は対象外です。中小事業主等の特別加入制度を利用すれば、業種ごとの労働者数の上限の範囲内で、労働保険事務組合を通じて加入できます。それ以外の場合は、民間の傷害保険の検討が必要です。

役員報酬は給与計算ではなく税務のルールに従う

法人税法上、役員報酬が損金に算入されるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれかに該当する場合に限られます。

  • 基本報酬。事業年度を通じて毎月同額である必要があります。改定は原則として事業年度開始から3か月以内、または職務内容の重大な変更や業績の著しい悪化があった場合に限られます。
  • 賞与。支給時期と金額を事前に税務署へ届け出る必要があります。実際の支給額が届出と異なる場合、多くても少なくても、支給額の全額が損金不算入となります。
  • コミッション・業績連動報酬。業績連動給与には、報酬委員会等の手続による客観的な算定方法の決定と、有価証券報告書等による開示が必要です。同族会社の場合は、同族会社以外の法人による完全支配関係があるものに限られます。これらの要件を満たさない限り、受注に連動して毎月変動するコミッションは、定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらないため、日本法人の損金になりません。

代表取締役は税務上、使用人兼務役員になることができません。部長職を兼ねる取締役であれば報酬の一部を使用人分の給与として支給できますが、代表取締役にはこの方法が使えません。

これは変動報酬が違法になるという意味ではありません。変わるのはコストと仕組みです。基本報酬を高めに設定する、事前確定届出給与として賞与を届け出る、変動報酬や株式報酬を親会社から支給する、といった方法がよく取られますが、いずれも税務上の取扱いが異なるため、専門家への確認が必要です。

実務上のポイント

初めて日本のリーダーを採用する企業へ

  1. カントリーマネージャーを代表取締役にする必要があるかを検討してください。2015年以降、日本に住所を有する代表取締役は不要となっており、親会社の役員が代表取締役を務めることもできます。
  2. カントリーマネージャーを従業員として雇用する場合は、肩書きに注意が必要です。代表権のない取締役に「社長」などの名称を付けると、善意の第三者に対して会社がその行為の責任を負うことがあります。
  3. 従業員としての実態を伴う平取締役であれば、使用人兼務の形も取れます。ただし、代表取締役では取れません。
  4. 代表取締役として選任する場合は、委任契約として書面化し、最初の支給前に報酬の設計を税務ルールに合わせてください。

初めて代表取締役に就く方へ

  1. 雇用契約、委任契約、またはその両方のどれになるのか、相手方はどの法人なのかを確認してください。
  2. 任期の長さと、任期途中で解任された場合に何が支払われるのかを確認してください。退職慰労金については、事前に定めがあったため損害として認められた例がある一方、定めがなかったため認められなかった例もあります。就任時に金額を書面で合意しておけば、その不確実性を避けられます。
  3. 賞与やコミッションを、誰が、いつ、どのように支払うのかを確認してください。
  4. 雇用保険の基本手当がないこと、特別加入しない限り労災の補償がないこと、役員賠償責任保険(D&O保険)が必要であることを前提に備えてください。

オファーと契約書に盛り込むべき事項

項目決めておくこと
契約形態委任、雇用、またはその両方。契約の相手方となる法人
任期任期の長さと再任の手続
基本報酬事業年度中の月額と見直しの時期
賞与・コミッション金額または算定式、支払者(日本法人または親会社)、届出日と支給日
株式報酬制度、権利確定、解任・辞任時の取扱い
退任正当な理由のない解任時の支払額、予告、引継ぎ期間
責任の保護D&O保険と会社による補償
制限事項秘密保持と退任後の競業避止
保険・福利社会保険、労災特別加入、民間保険

代表取締役という形は、多くの初代リーダーにとって適切な選択です。ただし、それは何が失われ、何で補うのかを双方が理解したうえで、意図して選ぶべきものです。

本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律上・税務上の助言ではありません。個別の契約については、必ず弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。

出典

官公庁の資料
法律・学術・専門家の解説

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